バイアスを知ろう その1
皆さんこんにちは
2018年8月4日(土)にワンステップおしゃべり会が開催されました。15回目となる今回のテーマは「バイアスを知ろう」です。
書いてくれたのは、まりもさんです
当たり前の話しですが、わたしたち患者は納得する治療を受けたいと思っています。そして治療を続けて行くと様々なシーンで決断を迫られる場面に遭遇します。そんなとき誰だって自分にとって最良の結果が得られる方法を選択したいと思うはずです。
しかしその重要な決定をするときに「バイアス」という正体不明の生き物が自分の思った方向とは違う方向へと誘導する仕掛けをしていたらどうなるでしょう?次々といろんなところに罠を張ってわたしたちを困らせているとしたらどうすればいいでしょう?
今回を含め3回シリーズで、そんな迷えるわたしたち子羊が神の国からやってきた先生のありがたいお話と仲間同士の話し合いを通して、次々に降りかかってくる「バイアス」をどのようにしてかいくぐり納得の治療へとたどり着いたかをお話ししたいと思います。
この日迷える子羊たちが助けを求めたのは、おしゃべり会の数日前に島根大学医学部付属病院臨床研究センター教授に着任されたばかりの大野智先生です。様々なメデイアを通じて情報発信をされていらっしゃる「患者力アップ」の秘訣を教えていただくには最適の先生にお越しを頂きました。ワンステップでの講義は今回で2回目となるのでご存じの方も多いのではないでしょうか。
講義のお題は
「バイアス」って何?~「見極め方」と「向き合い方」のコツ~
です。
※尚、講演での先生のご発言やご説明等は、筆者の記憶と当日配布された資料から起こしたものであり、「一言一句正確に再現したものでない」ことをご了承ください。
では先生の講演のテキスト版ライブはじまりはじまりぃ~。
先生、先ずは自己紹介から始めます。プロジェクターから映し出されたのは、若かりし頃の学生証や勤務先の身分証明書。ちゃんとご本人の顔写真が入っています。ふと目を横にやるとあの人気グループ(嵐)のリーダーが右手を挙げて「別人でごめんね」と吹き出しで言っています。そう「大野智」と書いて「おおのさとし」さん。先生とリーダーは同姓同名なのです。子羊たちの顔に笑みがこぼれます。いつもの事ながら鮮やかな「つかみ」で子羊一同先生の講義に一瞬にして釘つけとなりました。
※今回はWEBでも参加可能でした
続けざまに先生はこう尋ねます。「この2つの線はどちらが長いでしょうか?」と言ってAとB上下に2つの線が並んだスライドを指しながら私たちに聞いてくるのです。この線はいわゆる錯視の例によく使われる「線分の両端に開いた矢羽がついているものが上段、閉じているものを下段に配した図」のようにわたしたちは見えました。どっちが長く見えるか挙手を求められれば当然矢羽が開いているAの方に子羊たちは手を挙げます。そこで先生はタネあかしをします。「Aの方が0.5cm短くなっています。昨日このスライドを作る時ちゃんと定規で測ったので間違いなくBの方が長いのです。」とおっしゃるではありませんか。してやられる子羊たち。
そして先生はこれが「バイアス」ですとつづけます。「バイアス」とは考え方や意見に「偏り」を生じさせるもの。「先入観」とか「偏見」などと言い換えられると教えて下さいました。
さあ先生のお話は私たちを興味のるつぼへどんどん引き込んで行きます。人は認知をするときに様々なバイアスに影響を受けていますが、先生はその影響を与える因子の代表選手3つをスライドに示しました。
1心理効果
2感情
3専門用語
です。
先生はまず1心理効果から具体的に例を挙げて説明を始めます。
「ブヨブヨお腹が、たった1粒で・・」
「○○ショッピング販売数1位、モデルの△△さん愛用。愛用芸能人多数。」
「糖の吸収を抑える働きが専門機関の研究で明らかに」
「実感の声が続々と・・・」
「安心の30日間全額返金保証」
の文字が躍る健康食品のチラシをみせて先生は解説をします。
まず「保有効果」。
人は手に入れたものに対して、入手する前よりも愛着や執着を感じるのだそうです。このチラシは「返金保証制度」で購入のハードルを下げ、購入後は「保有効果」で自らは手放しにくいという心理効果を上手に突く技法を駆使しているのだそうです。
他にも「実感の声が続々・・」は経験談が信用されやすいという「ウインザー効果」と呼ばれる心理効果を狙ったもの。「専門機関の研究・・・」は「権威への服従心理」。そう偉い人の意見って鵜呑みにしがちです(筆者談)。「○○ショッピング販売数1位、△△さん愛用・・」は「バンドワゴン効果」(流行っている者に飛びつきがちなこと)や「同調現象」(みんなと同じが安心という心理)を上手く利用した消費者の心理をくすぐる絶妙の広告なのだそう。
私たちが日頃よく見る健康食品広告は、実に巧みな科学的理論で武装されていたのであった。うーん。やるなぁ。
そして講義は「相関関係」と「因果関係」に移って行きます。
先生は、またしても一枚の折れ線グラフをプロジェクターに投影します。グラフは「日本人女性の平均寿命に影響したもの?」を表しているようです。
縦軸に「日本人女性の平均寿命」、横軸に「日本の一般家庭に普及した○○(の普及率)」と書いてあります。
「この○○に当てはまるもの、皆さん解りますか?」
「ヒントは電化製品です」
すかさず子羊の中から手が挙がりました。
「洗濯機です。」
さすがワンステップに集う子羊です。見事に正解を射止めました。
先生は、解説を続けました。
「確かに日本は、昭和の経済成長期を経て家事の負担軽減をさせるいろいろな家電製品が家庭に普及しました。そして日本人女性の寿命も右肩上がりに延びて行きました。」
「しかしそれは相関関係があると言えるのでしょうか?」
子羊たちは黙って考えます。
一見すると快適な日常生活を便利家電のおかげで過ごしたことが寿命の延長に貢献していると言えなくもなさそうですが、それだけが原因でもなさそうですね。逆に便利になりすぎて筋力の低下等を誘発し寿命の短縮に繋がることも考えられます。
この様な事象を「擬似相関(Spurious correlation)」と言うそうです。
そう説明して先生は面白い擬似相関の例をいくつか紹介してくれました。
「プールで溺死した人数とニコラス・ケイジの映画出演本数」
「米国における日本製の乗用車販売台数と自動車を使った自殺件数」などなど。
子羊たちはニヤニヤしてお話に聞き入っています。そして子羊たちみんなは先生に「お話のつづき」をねだるような目になっていったのでした。
と今回はここまで。次回は認知バイアスに影響を与える2感情と3専門用語についての講義をお伝えしたいと思います。
※このワークショップは、アステラス製薬株式会社さんの助成金を受け、開催されました。感謝申し上げます。